時間遅れを導入した遺伝子回路におけるカオスの発現 ~二つの遺伝子の自己制御に対する時間遅れの導入~(物理学系 鈴木陽子)

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時間遅れを導入した遺伝子回路におけるカオスの発現
~二つの遺伝子の自己制御に対する時間遅れの導入~

整理番号:2016-011


研究者名: 鈴木 陽子(Yoko Suzuki)
所  属: 理工学部 総合理工学科 物理学系 准教授
専門分野:数理物理・物性基礎
キーワード:生物物理、統計力学

研究概要

細胞を機能させたり維持する上で、遺伝子ネットワークは極めて重要な働きをしています。遺伝子回路の理論的な研究においては、定常状態における振る舞いに着目することが多く、時間遅れを入れて考えることはあまり行われておりませんでした。我々は、1~2の遺伝子からなる回路でさえも、転写抑制や転写促進に対して時間遅れを取り入れることにより、時間遅れのない場合に比べて様々な動的挙動を示すことを数値シミュレーションを用いることによって、明らかにしました。ここでは、その例として、図1のような相手の遺伝子を制御する2つの遺伝子からなる単純な遺伝子回路に遅延時間を導入した場合についての結果を紹介します。

■ 相手を制御する遺伝子AとBの遺伝子回路に時間遅れを導入

  • 相手を転写抑制・促進する遺伝子ペア(a)遅延時間(τ)が短い(< 1.05分)と発現及び分解するタンパク質濃度変化は定常状態、長くなると周期性を示す(図2)。
  • 遺伝子ペアaの遺伝子Aに自己転写抑制ループを追加(b. 図3:左)τ1 5.3分の時のτ2時間依存的タンパク質濃度の最大値に対する分岐図(上図)で、τ2 < 8.0分或いは> 9.18分では周期性、それ以外は周期性或いは弱カオスを示す(上図、中図)。τ1 5.3分、τ28.2分の時のタンパク質濃度変化は、非周期性且つ弱カオス(下図)であることが分かる。
  • 遺伝子ペアaの二つの遺伝子に自己転写抑制ループを追加(c. 図3:右)τ16.0分、τ25.0分、 τ37.5分の時のτ21時間依存的タンパク質濃度の最大値に対する分岐図(上図)で、t21> 14分では非周期性を示す(上図、中図)。τ2116.0分の時のタンパク質濃度変化は、非周期性且つ強カオス(下図、強カオス発現に特徴的な非周期スペクトル)であることが分かる。

 

図1 2つの遺伝子回路モジュール間の相互作用(遺伝子Aと遺伝子B)
a:遺伝子Aからの転写促進と遺伝子Bからの転写抑制、b:遺伝子ペアaの遺伝子Aに自己転写抑制ループを追加、c:遺伝子ペアaの両遺伝子AとBに自己転写抑制ループを追加  t:遅延時間

図2 定常状態と特徴的周期性

図3 弱カオス的挙動(左)と 強カオス的挙動(右)

P:周期的(Periodic)、QP:準周期的(Quasi-Periodic)、WC:弱カオス的(Weak Chaotic)、SC:強カオス的(Strong Chaotic)

応用例・用途

  • 遺伝子回路をモジュールとして扱うことで、細胞の振る舞いを説明することが可能になります。
  • 免疫システムを妨害する腫瘍細胞のカオス的挙動の解明にも役立ちます。