草木質バイオマスからの高効率エタノール生産技術の開発
~キシロース利用酵母の変異処理とプロトプラスト融合~
整理番号:2016-069
研究者名: 田中 修三(Shuzo Tanaka)
所 属: 理工学部 総合理工学科 環境科学系 教授
専門分野: 環境技術・環境材料、土木環境システム、応用微生物学
キーワード: リグノセルロース系バイオマス、糸状菌トリコデルマ、セルラーゼ、変異導入
研究概要
酵母Saccharomyces cerevisaeとCandida intermediaとの細胞融合により、キシロースを利用する変異・融合酵母の獲得と得られた酵母を利用した発酵技術を開発したので紹介する。これにより、草本系バイオマスである稲藁を原料として、①亜塩素酸・重曹を用いた前処理技術、②高活性な低温性セルラーゼによる糖化技術、及び③変異・融合酵母による発酵技術を利用した、食料との競合や農地の乱開発を起こさないバイオエタノール生産を可能とする一連の技術を確立した。
- エタノール発酵能の高いSaccharomyces cerevisae NBRC2114(以下、 S. cerevisae )とキシロール代謝能をもつCandida intermedia NBRC10601 (以下、 C. intermedia ) (両酵母とも、NITE-NBRCより取得)を野生株として用いた。両酵母をメタンスルホン酸エチルで変異処理し、キシロース取り込み能を向上させたS. cerevisae 変位株とキシロース取り込み能を抑えたC. intermedia とのプロトプラスト融合注1)を行い、グルコース存在下でもキシロース取り込み能が野生株の約12.2倍高いFSC1株(変異・融合酵母)を獲得した。
- FSC1株のエタノール発酵能を改良するため、再度メタンスルホン酸エチルで変異処理し、改良型のFSC3株を取得した。エタノール収率(g/g-グルコース・キシロース基質):FSC3株は0.42、FSC1株は0.38、野生株S. cerevisae は0.1
- 一連の研究の成果を組み合わせて実験を行ったところ、エタノール生成は発酵48時間で完全に糖化された(図1)。エタノール収率は、0.324(g/g-前処理済み稲藁)であった(前処理済み稲藁は、菌体増殖にも使われた)。
注1):細胞壁のない植物等の2種類の細胞を融合する方法。細胞融合には、一般的にPEG(ポリエチレングリコール)が用いられる。
応用例・用途
- 高活性低温性セルラーゼとキシロースを利用する変異・融合酵母を組み合わせることで、高効率なバイオエタノールの生産が可能となり、地球温暖化対策に貢献できる。
- 草木質バイオマスを原料とするバイオエタノール生産により、再生可能エネルギーとして貢献できる。
研究施設
- インキュベータ、電気泳動装置、PCR計、分光光度計、質量分析計(LC-MS/MS)、クロマトグラフ(HPLC、FPLC)、凍結乾燥機、ファーメンタ、高速遠心分離機、オートクレーブ、恒温室、安全キャビネット、フリーザ(-80℃、-20℃)