環境に優しく、無駄なく、効率的な合成 ~光学活性化合物の新規合成法~(生命科学・化学系 松本一嗣)

環境に優しく、無駄なく、効率的な合成
~光学活性化合物の新規合成法~

整理番号:2016-015


研究者名: 松本 一嗣(Kazutsugu Matsumoto)
所  属: 理工学部 総合理工学科 生命科学・化学系 教授
専門分野: 有機合成化学、生体触媒化学
キーワード: グリーン・サステイナブルケミストリー、生体触媒、光学活性、有機合成

研究概要

 「環境に優しく、無駄なく、効率的に」物質合成を行うグリーン・サステイナブルケミストリーが求められています。我々の研究室では、生体触媒(酵素や微生物などの天然由来の触媒)の基質特異性を利用した反応による光学活性体の合成など、従来の有機化学と生物化学の境界領域の研究を進めています。そこで、代表的な光学活性体の合成例について紹介します。

  • エノールエステルをリパーゼ注1)により酵素加水分解すると得られるケトンはラセミ体となりますが、ウシ血清アルブミン(BSA)を添加することにより光学活性なケトンが生成することを明らかにしました(図1)。BSAは、各種の有機化合物を結合し、血液中を輸送するタンパク質です。結合部位が、酵素の活性部位のような反応場を提供することで、光学活性体が生成したと考えられます。
  • カルボニル化合物とニトロアルカンを縮合するニトロアルドール反応は、代表的なC−C結合反応の一つとして知られています。ヒト血清アルブミン(HSA)を反応系に添加することで、水中での不斉反応が可能であることを初めて明らかにしました(図2)。

注1):Lipase、油脂のエステルをアルコールとカルボン酸に加水分解する酵素Lipase PS: Burkholdria cepacia由来、天野エンザイム株式会社製

図1 エノールエステルの酵素加水分解合成収率とエナンチオ選択性

図1 エノールエステルの酵素加水分解 合成収率とエナンチオ選択性

図2 ニトロアルドール反応(ヘンリー反応)単離収率70%、エナンチオマー過剰率79%

図2 ニトロアルドール反応(ヘンリー反応) 単離収率70%、エナンチオマー過剰率79%

応用例・用途

  • 新しい手法・考え方に基づいた新規有機化合物合成法を提案できます。
  • 有機溶媒を使用せず、生体触媒を再利用可能で、環境にやさしい合成法を提案できます。